国立循環器病研究センターの取組

概要

国立循環器病研究センターは、国の医療政策と一体となって国民の健康を守るため、昭和52年(1977年)に設立された循環器病を対象とする国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)です。循環器病に関する診断・治療、調査・研究および専門医療従事者の研修・育成を担っています。
  詳しくは、国立循環器病研究センターのホームページをご覧ください。

取組

心臓手術と心臓移植

心臓手術の実施に当たり、心臓を止めて人工心肺を用いる術式が一般に用いられますが、虚血(血が流れない)状態が長く続くと身体にかかる負担が大きくなります。国循では人工心肺を用いない冠動脈バイパス術(OPCAB)を基本術式とし、患者さんの体に負担の少ない(低侵襲)手術で良好な成績を挙げています。近年、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)やロボット手術など低侵襲な手術の技術が向上しています。国循ではOPCABTAVIの同時手術など日本で初めての手術も積極的に実施し、高齢や心臓手術の既往などハイリスクの患者さんの救命に寄与しています。
 現在ある全ての治療に効果がない末期心不全の唯一の治療法は心臓移植です。1997年に臓器移植法が制定されてから、国循はわが国最多件数の心臓移植を実施しています。心臓移植実施までの待機期間は長期になるため、待機期間中は心臓のはたらきを維持する補助人工心臓(VAD)を装着しますが、最初に承認された体外式VADは国循で開発されました。また、体内に植込むことで移植待機中に在宅生活を可能にできる植込み型VADの装着も我が国で一番多く実施しています。一時的に重症心不全に陥る劇症型心筋炎に対するVAD治療も積極的に行い、全国各地から緊急搬送されてきた患者さんを救命しています。先天性重症心不全の治療も積極的に行い、小児用VADの装着や小児心臓移植も手掛けています。

ドクターカー

患者さんの病態を把握し速やかな治療につなげるため、国循では新生児から成人まで幅広い年齢層の患者さんの輸送が可能な高性能のドクターカーを、2012年より導入しました。ドクターカーに医師や看護師が乗り込み搬送時から診療に関わることで患者さんの病態把握と迅速な治療が可能になり、救命率の向上と予後の改善が期待されます。
 ドクターカーには携帯電話を利用したモバイルテレメディシン(移動体通信)を採用し、心電図や患者さんの様子などの動画をCCU(心臓血管集中治療室)にリアルタイムで送信することで、国循に到着後すぐに最適な治療が行えるよう受入態勢を整えることができます。「動く診察室」としてドクターカーは重篤な循環器疾患の患者さんを対象に出動し、迅速かつ安全に患者を搬送しています。可動範囲も広く、近畿圏内だけでなく、中四国や東海北陸で先進医療を必要とする患者さんを国循に搬送しています。

超急性期脳卒中治療

脳卒中で脳の虚血状態が長く続くと、脳に障害が起こり後遺症等の原因になるため、一刻も早い治療が不可欠です。特に脳梗塞部分の血栓を溶かして血流を回復させる「t-PA」は発症後4時間30分までが適用となり、いかに早く脳卒中に気づいて受診するかがその後の治療や予後を左右します。国循はわが国のt-PA旗艦施設として国内への導入に尽力し、使用実績も国内最多です。また、急性期脳卒中の集中治療室であるSCUも全国に先駆けて1978年に開設し、適切な治療を迅速に実施できる体制を整えました。国循は設立当初から、わが国における超急性期脳卒中医療の指導的役割を担い続けています。
 また、早期発見・早期受診の促進のため、国循は脳卒中教育の研究の一環として、小中学生を対象に脳卒中教室を実施する取組みを行いました。子どもが家庭で脳卒中の知識を広めることや、脳卒中教室を実施する地域の医療者が正しい知識を身につけることにより、急性期脳卒中に対し迅速な対応が可能になることを目指しています。

かるしお

かるしお やさしく おいしく

心疾患と脳血管疾患を合わせた循環器病は、わが国の死者数の第2位、国民医療費の第1位、また特に脳卒中は要介護原因の第1位であり、循環器病の予防は国家財政や国民の健康のために重大な課題といえます。
 循環器病は動脈硬化を主因とし、動脈硬化は高血圧など生活習慣病によって進行が早まります。つまり、高血圧の治療・予防は循環器病の予防につながります。国循の病院食は治療の一環という位置づけで1食の塩分2g16g未満になるよう計算されていますが、塩を減らしたから味気ないのではなく、塩を軽く使うことで食材のうまみを引き出す調理法で美味しい減塩食を実現し、患者さんにも好評です。この減塩の新しい考え方「かるしお」は、レシピ本を通じて広く受け入れられ、5冊出版した書籍の累計発行部数は約38万部となりました。また、循環器病予防のために全国地域での減塩活動を支援する「かるしおプロジェクト」やその一環として地域の特産品を使用した美味しい減塩食を推奨する「S-1g(エス・ワン・グランプリ)大会」を2013年から継続的に実施しています。

JANP Study:世界初の「がん抗転移薬」臨床試験

国循研究所が昭和59年(1984年)に発見した心臓ホルモンである心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、生体由来であるため副作用の極めて少ない心不全治療薬として、国内外で広く使用されています。このANPの血管保護作用により、がんの転移を抑制できることが2012年に研究所生化学部の研究により明らかになりました。
 ANPの適用は現在心不全治療のみであり、肺がん手術の際の合併症低減のためのANP投与への適用拡大を目指した研究を行っていましたが、偶然にもその後肺がんの再発が抑えられていることがわかり、ANPのがん転移に対する効果についての研究が始まりました。マウス試験によりANPのがん転移抑制作用機序が明らかになったことから、国家戦略特区の保険外併用療養の特例を利用し、肺がん患者を対象にしたANPの作用を確認するための臨床研究「JANP Study」を、2015年から国内のがん拠点病院及び研究機関等と共同で開始しました。ANPの新たな効用に対する適用拡大を通じて国民の健康に寄与したいと考えております。

吹田研究

循環器病の制圧と健康寿命の延伸には予防が大事です。エビデンスに基づいた循環器病の予防のためには、循環器病のコホート研究(疾病の予防に関する知見を得るため、特定の地域や集団に属する人を対象に健康状態や生活習慣などを長期にわたり追跡する研究)が必要で、米国のフラミンガム研究や日本の久山研究などが有名です。しかし、これらの研究の多くは郊外地域で実施されており、必ずしも都市部住民の実情に則していないという問題がありました。
 国循の予防健診部は、都市部住民を対象にした新たなコホート研究として、吹田市民を対象にした「吹田研究」を1989年から実施しています。吹田研究の成果のひとつとして、冠動脈疾患を予測するリスクスコア(吹田スコア)が挙げられます。吹田スコアは、循環器病研究のリスク因子に慢性腎臓病(CKD)を加え、健診で実施されている項目で都市部に住居する日本人の心筋梗塞発症リスクをフラミンガムリスクスコアよりも日本人の実態に則して予測することができます。今後、様々な循環器疾患予防のガイドラインに、その活用が期待されています。